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~おひるねする?~ page1 2 (全)



<2>

 次に気がつくと、左之助にまたがっていた。震える腕を彼の胸について、必死に身体を支えようとしていた。膝がガクガクで力が入らない。腕にも脚にも、入らない力をなんとか入れようとする、その必死さで意識が戻ったのかもしれない。
 左之助が両手で腰を支えているからそうまで頑張らなくても落ちはしないのだろう。だが、そうして支えられながら下から突き上げられる刺激があんまり強くて、力を抜いてしまうのが怖いのだ。しかも、両手がふさがっていても、左之助にはまだ使えるものがある。しっぽだ。ホッキョクギツネのみっしりと濃くやわらかな冬毛のしっぽが、さっきから剣心のいろんなところを攻めている。
 長い間胸を弄りつづけていたしっぽが真っ赤に充血した突起をようやく解放して、今度は背中を撫しはじめた。縦、横、ジグザグと背中を大胆に嬲られて、身震いが走った。
「あああっ、ああああ……!」
 背筋は剣心の弱点だ。とくに下半分はいけない。しっぽのつけ根に近づけば近づくほど、もういてもたってもいられなくなる。他のどこを触れられても、それでどんなに感じても、決してこうはならない。うずうずムズムズとわきあがる性感は、さざ波のように全身に波及して、剣心を溺れさせる。
「左之……」
 左之助は、思わず責める調子になった剣心の要求を、焦らすことなく叶えた。
 尾てい骨をくすぐり、少し手も使って、剣心にもしっぽを出させたのだ。剣心の身体じゅうで最も多感な、尽きることない快感の源泉であるしっぽを。
「あああああああ」
 ホッキョクノウサギのしっぽは小さい。まるい小さいおだんごのような可愛い突起だ。重量感のある左之助のしっぽの前には、手の中の毬のようなものだ。やさしい愛撫でさえ、与えられる官能とその支配力は圧倒的だ。
 中と外の一番感じやすいところを同時に攻められて、溶けた鉄のような強烈な視線に見つめられながら、それからどれだけ声を上げ続けていたのだろう。
 熱に浮かされたように自分を呼び続けていた左之助の声が一瞬やんで、舌で上唇を舐めるのが見えた。その瞬間、何かが弾けた。

 脱力してどさりと床に倒れた。
 脈が早い。呼吸も早い。おかしいんじゃないかと思うくらい早い。身体はかっかかっかと熾った炭のようだし、目の前がまだチカチカする。まばたきさえ大儀なほどの脱力感。
 剣心は本来、このセックスの後の感覚が嫌いではない。
 だが今日はちがった。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、もう消えてしまいたかった。
 徐々に視界が普通に戻ってくる。
 重い両手を引きずり上げて、顔を覆った。
 知らない間に何を言っただろう何をしただろう。どんな恥ずかしい姿を左之助の目に晒したのだろう。どうせいつも途中から意識など吹っ飛んで何がなんだかわからなくなっているから、すべてをはっきり覚えているというわけではない。快楽に没頭している間には、きっと正気では想像もつかないすごいことだってしているだろうとはおぼろげながら知っている。
 けれどそれとこれとは話がちがう。要は気持ちの問題だ。
 丸虫になってしまった剣心に、左之助が恐る恐る声をかけた。
「すまねえ。お前の寝顔があんまり可愛かったから」
 だからってあんなことするか普通、とは思う。ちょっと触ったり、キスしたり、それくらいならともかく、あんな――。
 とは思ったが、しょげる左之助を見て、可愛いと思ってしまった。
 今は出ていないはずの耳が見えてしまった。
 へにょりと萎れたあの耳に剣心は勝てない。
「まったく。変わらないな、おまえは」
 ためいきと共に苦笑がもれる。
「夢中になると我を忘れて周りが見えなくなる」
 小さい頃からそうだった。
 そして一心不乱に悪戯をしているところを見つかると、「あ」の後はいつもこの顔になった。
「まあ、おまえの悪戯に今さら本気で怒ったりしないが」
 けど、ちゃんと起きてるときに、ちゃんとしたい。
 そんなことは恥ずかしくて言えないが、そう思う。
「………」
 左之助はしばらく剣心を見つめた後で、おもむろに言った。
「剣心。好きだ」
「順序が逆だろう。そういうことはする前に言うものだ」
「おう、そうだけどよ。けど好きだから。後でも言っときてえじゃん」
 まただ。
 左之助の一挙一動が剣心の胸に灯をともす。ぽうっとあたたかくなって、そこから全身にあたたかい血がめぐる。
 かつて剣心は、ずっと一人で生きていると思っていた。頑張って頑張って頑張って、頑張れなくても頑張って、辛いのが人生だと思っていた。
 こんなに幸せでいいのかと思う。
「シャワー浴びるか?」
 うなずくと、抱き上げられた。
 けだるい脱力感と充足感。
 そしてふと気づく。
 ということは、左之助は例のその「催淫作用」が生じないようにしてくれていたのだ。身体に受けていたら、これではおさまらなかったはずだ。
「サンキュ」
「へ? 何が?」
「内緒」

 風呂を上がった剣心は、上掛けを広げて、リビングのラグに横になった。
 昼寝のやり直しである。
「左之。おいで」
 上掛けを持ち上げ、腕を伸ばす。
 察した左之助が、くるんとキツネに変じて、うれしそうにもぐりこんできた。
 伸ばした腕に前肢をかけ、顎をのせて、目を上げる。
 見上げてくるつぶらな瞳は穏やかに潤んで、とろけるようだ。
 大人ぶりたい年頃の左之助がこんな素直な目を剣心に見せるのは、セックスの時以外には、こうして腕枕で寄り添うときくらいだ。左之助は自分がそんな目をしていることを知らないだろうけれど。剣心が、この目が見たくて度々左之助を昼寝に誘っていることも知らないだろうけれど。
 とろけるまなざしに見つめられて、胸の真ん中がまたじゅんとあったかくなる。
『剣心。好きだ』
「うん、左之。おれも」
 まるで昔みたいだ、と思った。
 左之助が子狐だった頃。
 よくこうして添い寝をした。
――剣心、剣心。剣心、大好きー。
――ありがとう、左之。うれしいよ。おれも左之が大好きだ。
 日に何度も何度も、そう言っては頬を擦りあわせていた。ままごとみたいだったが、二人とも真剣だった。
 ちょこんと腕にかけられた前肢をつつくと、左之助がちろりと目を向けた。
「今度は、ちゃんと起きてるときに、ちゃんとしよう」
 左之助のアーモンドの目が真ん丸になる。
 可愛い前肢に照れ隠しのキッスをして、目を閉じる。
 すーっと息を吐ききる頃には、もう眠りに落ちていた。
 窓の外では、早い冬の陽が長い影をつくっている。

END/2010.1.1
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ご笑覧ありがとうございました! 本年もひとつよろしくお願いいたします。

2010年元旦 ようこ拝



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