shrimp cocktail


ちょっと笑わせてやろうと思っただけだったんだ。
あんまり仏頂面ばっかりしてるから。
タツノオトシゴみたいな口して、オニダルマオコゼばりに無愛想。
冗談言っても冷めた目で見上げるだけ、おいしいもの食べてもブー。
だからまあ、物理的攻撃?
笑えコノヤロ!
そしたら、コロコロと面白いほど笑う。
それでついやりすぎた。
ウリャウリャどうだ参ったか!
さすがに足のウラは弱いらしい。
ケラケラ笑って、聞いてるこっちまでくすぐったい。
調子にのってコチョコチョしてて、
床を叩くバンバンいう音がなくなってたのに気づかなかった。


え? アレ?
なんだどうした。
なんでそんな死にかけなんだ?
ていうか、そんなに苦しかったら言えよ。
と思ったら、どうも聞いてなかっただけらしい。
ちょっと可哀想なほど、ぐったり涙まみれ、汗まみれ。
網にかかったクラゲみたいにフニャけてる。
ごめんのキス。
そしたら、あんまり震えてて、いきなり心配になった。
泣くなよ、謝るから。
もっかい?
ハイハイ。
じゃあ今度はちょい長め、好き、のキス。

おっと、どうした。
やっとこおさまったと思ったら、いきなりとろっとろなんですけど。
爛れた涙目で首を傾げたりして、
うむ、これは放っといちゃまずいよな?
もう一回。
今度はうんとたっぷり、うんと長く。
これはもちろん、はじまりのキス。


どうしよう。
今日はあんまり素直で可愛いすぎる。
いつもクソがつくほど生意気で、人をボコボコにするくせに。
したたる視線が“もっと”って言ってる。
震えるまつげが“もっともっと”って言ってる。
もう頭クラクラ。
ぶっとびそう。
こんなこと、いつもなら恥ずかしがって絶対しないのに。
そんな声、もったいぶってなかなか聞かせてくれないのに。
なにされるんだろうみたいな怯えた顔して、
かすれた声でそんなこと言われたら、
それはちょっとシャレにならない。
ありったけ叩きつけて、グチャグチャにむしって、
汚して、つぶして、
ボロボロにしそう、どうしよう。
こんなはずじゃなかったのに。
ちょっと笑わせてやろうと思っただけだったのに。
ゴメン、まずいとは思うんだけど、なんかもう。
たまんない。



それに、今日のところは言わないでおいてやるけど。
気づかないふりしといてやるけど。
でも、ほんとは、してほしかったんだ。
可哀想だから言わないけど、
そんなにアレなら言わなくていいけど、
でもそれくらい、ちゃんとわかってるから。
お前のことなら、俺がわかってるから。




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ご笑覧ありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。
2005年元旦 ようこ拝



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