◇web拍手お礼小話11◇ (原作系寸文)
私に見えるただひとつの
ひとりでも救いたいとあなたは云う。
命のつづくかぎり闘いつづけるとあなたは云う。
けれど私には見えなかった。
なにかが救えるとは思えなかった。
なにかが変わるとは思えなかった。
どんな小さな希望も光も、私には見えなかった。
ただ必死に闘うあなたの姿だけが、闇の中に浮かんでいた。
倒れても倒れても倒れても膝を折らないあなたの姿だけが、
私に見えるただひとつの光だった。
目に映るひとを、目の前の悲しみを、
見過ごすことを、あなたはしない。
この世の不幸のすべてがあなたを苛む。
ひもじい子どもの枯れ枝の腕はあなたを打ち、
貧乏に負けて罪人となった親の涙はあなたを灼く。
途方もない罪科を脆い双肩に背負って
どこへどうして行こうとしているのか。
恋だと思ったことがあった。
愛だと思ったこともあった。
けれどちがったのだろう、きっと。
恋ほど我儘にはなれなかった。
恋ほどすべてを奪えなかった。
愛ほど寛大にもなれなかった。
愛ほどすべてを包めなかった。
焦がれて、焦がれて、ただ焦がれて、焦がれ尽くしてなお尽きない。
もう見えない。
あなたの背中と、あなたの掲げる希望のほかには。
それ以外のどんな小さな光さえ、もう。
了/2008.04.14〜05.27/10.26改
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