彼の病気が心配
「なあなあ、おれ思うんだけどさ。緋村さんってもしかしてすっげーおれラブだったりする? いや実は前々からもしかしてって思ってなかったわけでもねんだけどよ。でも今日のあれとか、だってどう見たってそうしかありえなくね? 今日は来ねえって思ってたんだよな。試験で来れねえって、おれも言ってたもんな。………。カーッ! ヤベー、思い出しただけでヤベー。前ならおれも気づかなかったかな。だよな。だろうな。けどおれもうプロだもんな、悪いけど。緋村さんのことでこのオレ様に判らないことなどなにもないのだよチミ。つうかだからさ、縁側で『ハッ』てこっち見たときの緋村さんの顔とかさ、あれはちょっとヤベーよな。『なんだ、来たのか』って、なんだじゃねえだろコノ〜〜。そんなうれしいのか、おお、おお、よしよし……ってなー。してえけどなー。でも緋村さん猫じゃねえもんなあ。おお、おお、よしよしはありえねえよなー。しかもなんせ緋村さんだしなー。あーでも可愛いかった。なんなんだあれは、あの可愛さは。きっとずっと外にいたんだよな? ほっぺがちょっと赤くてさ。ピンクの唇が咲きかけの蕾みたいでさ、ちょぼって小さく開いててさ。つうかあの眸はヤバイよな、普通に。メイボウコウシって、なんかこないだ漢文であったっけ。澄んだ瞳かあ……。まんまだよなあ。澄んでる澄んでる。澄み渡ってる。それがおれラブでドギューンのズドーンなんだもんなあ。はあぁ……。にしてもさ。こんだけほとんど毎日見てんのに、いつまでたってもドキドキするよな。なんなんだろうな、これ。なんかこう、ふって見せる表情がたまんねくてよ。……あー、やべ。あの人やっぱマジ綺麗すぎ。なんであんな綺麗な人がいるんだ? あの人見てると人間ルックスで世の中渡っていけるって真剣思うし。ていうかだから、なのにあんな目しておれを見るのがヤバイんだって。ヤベー。どうしよ、おれマジで。
なあ。あの人ってもしかして『オレがいないと寂しくて死んでしまう病』? つうかもしかしなくてもそう? やっぱり? だよなー。いや実はそうじゃないかと前々から思ってはいたんだよなー。な、な、でもじゃあさ、きっとおれがいない間、一人で美術館やりながらずっとおれんこと待ってんだよな? おれが来ないかって玄関出たり? あの眸でふって空とか見たり? ………ヤバイ。まじヤバイ。考えるだけで胸が苦しい。困ったなー。どうすっかなー。おれまだ学校あるし、つうか大学受かったらもっと来る時間なくなるし、その後も普通に仕事とかするわけだし。あのひと耐えられるんだろうか。なあ。もしかしておれ、緋村さんにすっげえ酷いことしてんのかな。『オレがいないと寂しくて死んでしまう病』の人をさ、こんなずーっと独りぽっちにして、放ったらかしにして、のんきに学校なんか行ってさ。自分が好きだからってだけで、こんな酷いことして、こんなん人として許されることじゃねえよな。ごめんな、緋村さん。きっとおれなんかよりもっと緋村さんに相応しい、緋村さんを幸せにできる奴がいたはずなのにな。でもおれだってもう緋村さんなしじゃ生きてけねえし。あーもうくそう! おれどうしたらいいんだ。なあ、おまえは知ってんだろ? おれがいないときに緋村さんがどんなか。どんだけ寂しそうにおれを待って待って待って待ち焦がれて死にそうになってるか。
な、ヤタ。矢田貝今日太郎。なあ。おれ、どうしたらいいと思う?」
―――病気? どっちが?
END/2008.1.1
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