◇web拍手お礼小話5◇ (原作系散文)
「浅茅が原」
退いていく汗と熱を、二人で見送る。
こめかみの鼓動が鳴りやんでいき、
腕の中の身体も静まっていく。
胸をくすぐる髪の動きも小さくなる。
豊かなまつげが、重たそうに上下する。
幾重にも重ねた打ち掛けの裾を引くように
ゆっくりと下がり、さらにゆっくりと上がる。
水と光の満ちた瞳が現れる瞬間を、何度でも待つ。
向けられる視線は悲しいほど穏やかで、
可哀想なほど無防備で、
行き場のない怒りと恨みが湧き出だす。
気まぐれな時代にではない。
皮肉な過去にではない。
いたずらな運命にでもない。
不器用な彼にでもない。
無力な自分にでさえない。
退っていくぬくもりを、ただ見送る。
肩を濡らす静かな息だけがまだ熱い。
心地好い風すら、かげろうよりもはかない安らぎを吹き散らす。
了/2005.03.08〜06.30
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