悪い子

北春日部ロビン


襷を掛けた剣心と盥を挟んで向かい合った。
だけどさっきから、剣心は俺のことをちっとも見やしない……。

「なあ、剣心〜」
「駄目でござる」
「何でだよ〜」
「見て分からぬか?」
「俺の耳掃除より、嬢ちゃんの腰巻洗うほうが楽しいってのかよー!」
「左之…子供丸出しでござるよ」
「へっ、どーせ俺は子供だよっ!バ〜カ!」

剣心に相手にしてもらえない俺は、破落戸長屋へ帰って昼寝をすることにした。
眠たくなんかなかったけど、剣心に耳掃除をしてもらうはずの予定がおじゃんになっちまったし…
俺は畳の上に寝っ転がり目を閉じると、今朝方見た夢の中の可愛い剣心を思い出し妄想をはじめる。


夢の中の剣心はスッゲー優しくてスッゲー可愛いくて、俺の願望そのままだった。
俺が剣心の名前を呼ぶと笑顔で俺に振り向いて、こっち来いよ、と言うと尻尾を振って抱きついてくる。
胡座の中の剣心は甘ったれた目つきで俺を見上げて俺の唇を強請るから、それに応じてやると俺の首に腕を絡ませて急に欲張りになる。
俺は重力に逆らわず、そのまま剣心を畳の上に組み敷いて、互いの指を絡ませ、はだけた剣心の肩にそっと噛み付く。
その軽い痛みに剣心がヤラシイ声を出し、顔を赤くして俺の頬に手を伸ばす。
細い指先がゆっくり下りてきて俺の服を脱がしはじめ、静かに俺に潜入してくる。
潤んだ瞳に魅せられて、俺は剣心をじっくりと味わう。
そして最後に俺の上に乗っかって、少し切ない表情で剣心はこう言う……

『左之、愛してる』

うっひょ〜!かわい〜ぞー!けんし〜ん!                                                    

そう叫んだ途端に目の前にいたはずの剣心は消え、代わりに小汚い天井が視界いっぱいに広がった。
俺は可愛い可愛い剣心と、この薄汚れた天井のギャップについていけない。

「いつの間に寝たんだ俺…あ〜あ、また夢か」

分かりきった独り言を吐いて、無理矢理自分を納得させて、どうにか体を起こした。
そしてその時、俺は自分の体に奇妙な違和感を感じた。
剣心の夢を見たあとは、どうも腑抜けて体が重くなるってのに、何故か今は軽い。
ってゆーか軽過ぎる。
天井も何だか高く感じるし、兎にも角にもこの部屋が異様なくらいに広く感じて仕方ない。

俺、ちっこくなったのか?…って、誰だテメーッ!!

俺は自分の体に異変がないか確かめようと両手を見てみた。
でもそれは俺の手じゃない。ってゆーか人間の手じゃなかった。
茶色い毛がもさもさ生えていて、ぷにぷにの肉球がついている。
背後にいる誰かの手だと思い振り向いたが誰もいない。
俺は焦ったが、もう一度自分の掌をゆっくりとヒラヒラさせ、裏と表を確かめた。

ウ、ウソだろ!?これ、俺の手か!? あり得ねぇ……。

腕を振ったり回してみたり、あちこち体を動かしてみた。
やっぱりどんな動きも俺の脳の指示通りで、俺は動物に変化したことを認めざるを得ない状況に陥ってしまった。
俺はぷにぷにの肉球で自分の顔を触ってみた。
鼻はびっしょり濡れていて健康そうだったけど、その鼻の周りにピョンピョン髭が飛び出している。
口は恐ろしいくらいに裂けていて、ベロも随分と長かった。
頭を触るとツンツンしていて、その両脇には耳が、そして尻には立派な尻尾まで生えていた。

俺って何だ?……狐か?狸か?イタチか?…うぉ〜何なんだー俺ー!


俺は鏡を探したが、そんなモンこの家にあるわけがない。
果てしなく混乱した俺は長屋を飛び出そうとして、思い切りハデにコケた。

やっぱ二足歩行はムリか…ぅぅ〜情けねぇ……。

なんとか戸を開け、仕方なく四つん這いになって、俺は近くの川原まで走った。
ものスゴク恥ずかしい体勢だったけど、走りながらその速さに驚き、驚いている間にも、もう川原まで来てしまった。
俺は川の水面に顔を映してみた。そして当然のことながら、またまた驚き、ついでに絶大なショックまで受けた。

「ワン、クウ〜ン…」

は?!……俺は今、ゲッ、犬かよッ!って言ったはずなのに…なんだよ、ワンって!何なんだよ、クウ〜ンって…
俺、言葉も話せないのか!?何がどうなってるんだ?!こんなんで俺、この先どうすればいいんだ、剣心…

項垂れていた俺は頭を上げ、剣心のいる道場に向かって走り出した。
夢なら早く覚めてくれ!そう思いながら、知らないうちに剣心に助けを求めている俺。
その途中で馬車に引かれそうになったり、デカイ犬に絡まれたりして少しビビったから、
見っとも無いとは思ったけど、これも人生経験と開き直り、電柱にチ〜ッと犬ならではのアレもやってみた。
そんなこんなで、どうにかこうにか道場まで辿りつくことが出来た。
裏口に回って庭を覗いてみると、丁度剣心が米を研いでいる最中だった。

「ワンワン!」

剣心!…そう言ったつもりなのに、俺の口から出てきたのはやっぱり犬語だった。
だけど、剣心は俺の声に気付き振り向いた。

「おろ?」

剣心は首を傾げて、濡れた手を手拭いで拭くと俺の近くまで寄ってきた。
そして俺の頭を撫でながら、目の前にしゃがんだ。

「お前、迷子か?」
「ワンワン、ク〜ン…」(俺だよ、剣心…)
「そうか、そうか。可哀そうにぃ」
「ク〜ンク〜ン…」(だから〜そうじゃねぇんだよ…)

剣心は俺を迷子の犬だと決め付けて、お〜よしよしと言いながら何度も俺の頭を撫でていた。
すると、出稽古から戻ったばかりの嬢ちゃんが大汗を掻きながら剣心に風呂の催促をする。

「ああ、薫殿。すぐに入れるでござるよ」
「ありがとう。ねえ剣心、その犬どうしたの?」
「どうやら迷子のようでござるな。そこで鳴いてたから、つい…」
「ふ〜ん。あんまり優しくすると居着いちゃうわよ」
「気をつけるでござるよ」

そう言って剣心は俺の顔を見て苦笑した。
こんな状況でも俺は、そんな剣心の顔を見て少し安心してしまう。

「そういえば左之助は?」
「構ってくれる者が誰もおらぬから、渋々帰ったでござるよ」
「そう。じゃあ、お風呂入ってくるわね」

嬢ちゃんが風呂に入ると、剣心は火の番だ。
その間中、俺はこれからどうすればいいのか考えながら、剣心の隣におすわりしていた。
すると今度は、弥彦が現れ剣心に飯を催促する。

「もうちょっと待つでござるよ、弥彦」
「俺、腹減って死にそうなんだよ。剣心〜頼むから早くしてくれよ〜」
「はいはい」
「なあ、剣心。この犬何どうしたんだ?なんか不細工な犬だな〜」
「ワンワンワン!」(何だと、クソガキ!)

「うわ〜、なんだこの犬、可愛くね〜の〜」
「弥彦が不細工なんて言うからでござるよ」
「何だよ!犬のクセに感じ悪ぃーな。頭もツンツンして左之助みたいだし、なんかムカつくぜ、この犬…」
−ガブッ!!
「ギャーーッ!いってーッ!放せこのバカ犬!」


俺は、この生意気なお子様に腹が立ったから腕に噛み付いてやった。
さすがの剣心も慌てて、俺を宥めようと必死だ。
俺だって、そこまでお子様じゃねぇから、すぐに放してやるつもりだった。
剣心に免じて俺がパカッと口を開くと、弥彦は一瞬で腕を引っ込め家の中に逃げ込んだ。
涙目の弥彦を見ると俺は満足して、剣心の足元に擦り寄った。

「ワンワン」(剣心?)
「どうしたでござるか?」
「ワンワンワン」(俺のせいじゃねーからな)
「よしよし、そうでござるな」
「ワンワン!」(け、剣心!?)
「ん〜?」
「ワンワン、ク〜ンク〜ン」(俺の言ったことが分かるのか?)
「もうすぐご飯やるからな」

俺はガクッと頭を落とした。
俺の唯一の希望が、今一瞬にして崩れ落ちた気がした。

いくら剣心だって犬語はムリだよな……。
だったら、あんな分かったような会話すんなよな…期待しちまったじゃねぇか……。

俺は犬のクセに横目で見上げて剣心を睨んだ。
すると剣心は俺の視線に気付き、おろ?の顔をしてしゃがんだ。

「弥彦じゃないが、お前、少し左之に似てるでござるな。アハッ」

そう言うと、剣心は両手で俺の頭や顔を撫で回した。
そしてバカ犬な俺は、事もあろうにそんな剣心に興奮してしまった。

−ペロッ…

俺は、俺の鼻の先に乗った剣心の手をちょこっと舐めてみた。
すると剣心は俺をただの無邪気な犬だと勘違いし、今度は体のあちこちを撫で回した。
顎の下とか、耳の横とか、背中とか、首の後ろとか……

気持ちイイ〜…剣心、お前犬の扱いっていうか、俺の扱い慣れ過ぎだぜ…
「ワンワ〜ン…クンクンクンクンク〜ンク〜〜〜〜〜〜ンクゥ〜〜ン…」

俺は犬らしくない犬の声で、剣心にこの気持ち良さをアピールしていた。
嬉しすぎた俺は、しゃがんでいた剣心を勢い良く押し倒し、四本足で剣心の体の上に乗っかった。

「おいおい…」

俺は小さな剣心に乗ったまま、思う存分顔を舐め回した。
一方剣心は困った顔をしたものの、それでも俺の背中を優しく撫でてくれた。
そんな剣心に気を良くした俺は、今度は剣心の耳とか首を舐めてみた。

「アハハハッ…こら、止めろってぇ〜…くすぐったいでござる〜」

とか言って剣心、ホントは気持ちいいんじゃねーの?!
  
俺はくすぐったがりの剣心が可愛くて、もっとイジめたくなってしまった。
着物を破かないように、そっと咥えて胸を露にし、鎖骨を狙ってペロッと舐めてみる。

「んふっ、お、おい犬…本気で止めてくれでござるよ」
「ワンワン、ク〜ン…?」(剣心、気持ちいいだろ?)
「んふふっ…もう、悪い子でござるな」
  
俺は剣心の上半身を舐め回しながら、剣心がこんなに素直に体を解放してくれるなら、
暫く犬でもいいかな、なんて阿呆なことを考え、同時にそんなことを考えた自分がこの上なくバカヤロウだと思った。
だけど、未だ覚めない夢の中なら、折角だし楽しまなきゃ損ってもんだ。

俺は剣心の上半身を堪能すると、そのまま後退り風な動きをし太股で止まる。
そして、そのまま下半身の俺の大好物な場所を凝視した。
すると、仰向けの剣心は頭だけ上げて俺を見て、俺の目線の先を見た途端、慌てた声を出した。

「お、おい、犬…お、お前、どこ見てるでござる…は、早く下りるで、ござるよ」
「ワン」(やだ)
「お前、今、やだって顔したでござるか?」
「ワン」(ああ)
「ま、まさか…お前、せ、拙者の言ってることが分かるでござるのか?」
「ク〜ン」(さあな)
「今、惚けたでござろう…」

俺はフンッと言わんばかりに剣心から顔を背けてやった。
そしてゆっくり顔を元に戻して、今度は剣心のあそこに鼻を近づけた。
慌てる剣心も、これまた可愛い。

「い、犬! 何する気でござる…」
「ワン!」(交尾!)

だけど、この手じゃ袴の紐は解けないし、だからといって噛み千切ることも出来ない。
袴の裾から潜ってみると剣心はまたへんな声を出したけど、息苦しくてかなわない。
剣心の匂いが充満したそこは、かなり天国だったけど、剣心の顔も見えないから一旦ガマンして袴の外に出た。
そして考えた末、俺は剣心のそこを枕にすることにした。
  
うわ〜何だこりゃ〜不思議な感覚だ……。

「おい、犬。勘弁してくれでござるよ…」

俺は剣チン枕の心地さに酔い、無意識に頭を横に振った。
その度に剣心は「ぅっ…」とか「クッ」とかヤラシイ声で堪えているみたいだった。
堪えられないようにしてやるから待ってろよ……。
俺は面白くなって、今度は少々乱暴に頭を振ってみた。
するとその瞬間、俺の頭にいい音と僅かな痛みがやってきた。

――バチン!!

「何だよ、剣心…って、アレ?」
「何がアレ?でござるか。左之がいい加減にしないからでござるよ」
「へ…?」

気がつくと俺は剣心の膝の上に頭を乗せていて、俺を見下ろす剣心は、あからさまに不快な顔をしていた。
ついさっきまで犬語を話していた俺は、この時やっと夢から覚めたことに気付く。

「剣心。俺、今何してた?」
「……」
「なあ、何してた?」
「ひ、人の股間に顔を埋めていたでござるよ…」
「マジかよ!?」
「しかも、頭を振っていたでござる…」

ぶっきらぼうに答えた剣心だったけど、顔はダルマみたいに真っ赤だった。
きっと剣心は、俺の機嫌を取りにここまで来てくれたのだろう。
その証拠に俺はこうして剣心の膝の上に乗ってるし、剣心の右手には耳掻きがある。
不貞寝をしていた俺の頭をこっそり自分に乗せて、こっそり耳掻きをしてくれたんだ。
俺はそんな健気な剣心が可愛くて堪らない。

「なあ剣心、俺が寝てる時、剣心は何してた?」
「左之の耳をほじっていただけでござる」
「クククク…ウソついてもわかるんだぜ〜?」
「へ?」
「俺のいろんなとこ触ってただろ?」
「ど、どうして拙者がそんなことを…」
「そんでもって、剣心も気持ちよかったんだろ?」
「左之っ!」
「俺も気持ちよかったしな〜ヘヘヘ…いいモン見つけたぜ、剣チン枕!うっひゃひゃひゃひゃ〜」
「ホント、ワルでござるな…」
「その悪が好きなんだろ?」
「さ、左之、待て…待つでござる…」
「おあずけは、もう勘弁してくれよ〜ほれっ…」

俺はそう言って剣心の腰に抱きつくと、剣心は俺の背中の悪一文字にしがみ付いた。

今は手が使える。口だって、足だって、声だって……。
今から俺全部を使って剣心を愛しちゃうぜ、っていうか食っちゃうぜ。
さっきまでのもどかしさを取り返したいから、ちょっと荒っぽくなるかもしれないけど、それもまた俺の愛情だと思って今日は観念しろな、剣心……。







エロかわいくてラブリー! ロビンさんグッジョブ♪ 掲載ご快諾ありがとうございますー!  ようこ






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